2012年3月27日火曜日

イケず終い

2月10日(金)
タイに来て4日目。
毎日毎日、食っちゃ寝呑んでばっかしてるのもカラダに毒やということで、タリンチャン水上マーケットへ出かけることにした。

タイの水上マーケットでは、日常品やら土産やらがたくさん売られているらしい。

そして、タリンチャン水上マーケットは、観光客よりも現地に住むタイ人に人気があるというので、ここへ行くことに。


カオサンからだとラチャダムヌーンを越えて、バスに乗りゃ行けるみたいなので、まずはラチャダムヌーンを探すことにした。

が、正直ラチャダムヌーンが何なのか全くわからない。
とりあえずその辺を歩いているタイ人2人組に聞いてみる。

「ラチャダムヌーン!」

「え?」

「ラチャダムヌーン!」

「え?」

…まったく伝わらない。

するとタイ人こう言った。

「ユー スピーキン イングリッシュ?」

「おっ。 おーいぇーす!」


さすが観光地を歩くタイ人。
英語はお手のもんってか?

しかし、こちとら英語はノーサーベ(解らない)。

それでも中学・高校と6年も授業で習ったのだから、なんとか伝わるだろう。


「アイ ウォンツー ゴー ツー ラチャダムヌーン!」

「はあ?」

やっぱり伝わらない。

一瞬にして英語はやめた。

「ラチャダムヌーン! ラ~ チャ~ ダ~ムヌ~ン!」

「おー。アイドンノー」

「タリンチャン。タリンチャン。
タ~    リン  チャ~ン!」

すると、片方のタイ人が何か気づいたようで、2人で話し合いだした。
そして、
「オッケー」
というと、すぐにタクを拾い運転手に行き先を告げ、送り出してくれた。


「なんとか伝わったなあ。
にしても、ラチャダムヌーンて案外遠いんや?」

「いや、タイ人もメキシコ人同様歩くんが嫌いなんやろ?」

そう、呑気に話しながらタクシーに揺られ出したはいいものの、一向に止まる気配がない。

(は? もしかしたらこのままタリンチャンまで行く気?)

そうなればかなりボラれるであろうことは必須だが、
「金払ってコトが済むならもう何でもええわ」
と、半分投げ槍な気分で運に身を任せた。


結局30分ぐらい走ったやろか、今まで一言も発せず寡黙に運転を続けていた運ちゃんが、
「着いたよ」
とたった一言告げ、僕らを追い出すと早々に立ち去った。

そしてその瞬間僕らはおったまげた。

「あれ? ここって北新地?」


よく見るとそこには、見渡す限りのビル、ビル、ビル。

そして、日本語で書かれた寿司屋やら飯屋やら、スナックやらの看板が立ち並んでいる。

飛び交う日本語に、スーツに身を包んだジャパニーズサラリーマン達のせわしない早歩き。


こらもうどっから見てもタイやなく北新地や。


「あれ?
僕ら確かタイにおるハズ…やねん…けど」


別になんか悪いモン吸ったり打ったり、悪酒に酔って幻覚見てるワケでもないのに。

あれ?
あれれれれれ?

もしかしてあのタクシー、噂のタートル号?

名前こそカメなものの、宇宙最速を誇る銀河海賊コブラさんのラブシップ・タートル号?


タイの暑さと突如あらわれた北新地な光景に頭はパニック。

そのままワケもわからず突っ立てると、通りの向こう端で若いタイ人の姉ちゃんを連れて歩く、中年日本人男性の姿が目に映った。

そして気づいた。
確かにここはタイやと。

ということは、タリンチャンである可能性はある。

あきらかに水上マーケット的な要素は見当たらないが、何が起こるかわからないのが旅であり、タイである(多分)。


わざわざ海外に来てまで、自分から日本人に声をかけるのはあまりすすまないが、仕方なくサラリーマン2人組に声をかける。

「す、す、すいません」

「はい?」

「ここってタリンチャンですよね?」

「え? タリンチャン?
いや、タニヤですよ」

「え?  タニヤ?
全然ちゃうやん!
タ~しかおーてへんやん!!」

思わず見ず知らずのリーマンに突っ込みを入れる。


話を聞くとここタニヤは、日本人ビジネスマンが在住するオフィス街であり、また日本人観光客向けの繁華街でもあるらしく、
「バンコクで日本人がタクシー乗ったら、だいたい此処に連れてこられるよ」
だそうだ。


つまり、ラチャダムヌーンは全く伝わっておらず、タリンチャンの発音の悪さからタニヤと伝わったワケや。


こんなコンクリートジャングル。
いけどもいけども、レディスマーケットはあっても水上マーケットなどないっつ~話。


タイ人のテキトーさにしてやられた2人は結局、電車とバスを乗り継いでカオサンへと帰ってきてしまった。


なんかもう力が抜けた。
僕らは残り短いタイ時間のすべてを、このカオサンに注ぐコトにし、いつものように眠くなるまでベンチに腰掛け怠惰に過ごした。

(部屋におるアリ達は、きっとこの公園からやって来てるんやろなぁ…)
なんてことを思いながら。