ほろ酔い気分で町へと繰り出した三人。
経済大国出身のわりに金のない阿呆共が、雁首そろえて一体どこへ向かうというのだろうか?
ここはいうなれば観光地。
皆それぞれにわっさわっさと金をばらまく場所であるから、貧乏人には肩身が狭すぎるってもんだ。
5分ほど歩いただろうか、アンドレスが立ち止まり指をさす。
「この店に入ろう!」
彼が指さした店は、”Revolución
”という名のBARだった。
Revolución=革命。
クーバ・リブレを呑んだ後に、革命という名の店を選ぶとは、アンドレスもこれでなかなか粋なはからいをするアメリカ人ではないか。
どうやらまだ、頭がイカれたわけではなさそうや。
ちなみに、Cubaでは町の至る所にRevoluciónと書かれている。
それにしても、彼はここで一体どんな革命を起こそうというのだろうか?
まさか散々食って呑んでした後、仲良く食い逃げしようぜとでもいうのか?
確かに、日米間でさまざまな条約を結んでいるのかもしれないが、仲良しこよしで食い逃げするなんて条約は結んではいないだろう。
食い逃げ革命を起こすような奴とは友達にはなれそうもない。
ごめんや。
だが、ポコチンさらけ出してマリフアナ吸いながら、
「ハル~。ユウキ~。ぶりぶり~」
なんて叫び、笑顔でメキシコのPolicíaに連行される。
そういった革命を起こしてくれるというのであれば、僕らは一生アンドレスと友達をやめないだろう。
国境を超えたベストフレンドになれるハズだ。
席につき麦酒を頼む。
日本語しか話せない日本人と、日本語の話せないアメリカ人が、なんやかんや話をしている。
ジョン万次郎とペリーが会話をしたとして、きっとこんな感じやろう。
アンドレスが席を立った。
きっと便所にて一服しているに違いない。
捕まる準備は万端なのか??
2人で呑んでいると、メキシカン2人に相席をお願いされたので、一緒に呑むことになった。
アンドレスが戻ってきて、五人で話をする。
っても、僕ら2人は蚊帳の外。
隣のテーブルに置いてあるビールピッチャーを、なんとかバレずにパクる方法をひたすら考えるのみだ。
そんな悪だくみを考えていたら、あっちゅー間に三人の酒はなくなった。
僕は悩んだ。
革命を待つより革命を起こした方がいいのではないかと。
いつも世話になっているアンドレスの元に、そっとピッチャーを届ける。
そして彼が喜ぶ。
そんな笑顔革命を起こそうと、財布の中身を確かめたあと、95ペソもするピッチャーをウェイトレスを捕まえ注文した。
そして席に戻った。
するとアンドレスが、何語かわからない言葉を語りかけてきた。
こちとらラムで若干酔っている。
日本語すらわからない状態なのに、外来語で語りかけるなどホントやめて欲しい。
はっきり言って迷惑だ。
しかし、待て。
これは! まさにこれは!
吉報な予感。
メキシカンが酒をおごってくれるということを、彼は伝えようとしている。
そんな感じがヒシヒシと伝わってきた。
僕は、どの国の人間が何語で話そうとも、酒をおごってくれるということに関してだけは、理解出来る自信がある。
なんとなく雰囲気でわかるのだ。
そして、今がおごってもらえるとき!
ということはだ。
先ほど頼んだピッチャーは、いち早く断らなければならない。
でなければ、おごってくれるであろうビールは、雲の彼方へと消えていってしまうからだ。
僕らはダッシュでウェイトレスの元へ向かった。
そして、
無我夢中で注文の取り消しを行った。
ウェイトレスは、今まさに注がれようとしているビールを、間一髪でとめてくれた!
彼女は最高のウェイトレスだ。
僕らは心から謝り、そして感謝し、あの人はガンジャし、席に戻った。
もし、このときの僕らの行動の一部始終を誰かがビデオで捉え、YouTubeとやらでUPしたならば確実に、
”惨め 日本人 ワラ”
”ニッポンの恥さらし”
などのコメントをつけられていただろう。
それほど僕らは必死だった。
アンドレスの笑顔が見たいなどとぬかしていながら、自分たちがタダで酒を呑むことに必死だった。
ええ大人がなんとも恥ずかしい姿をさらしたもんや。
だが、恥や外聞よりも、ビールがタダで呑めるということは、何よりも大事なことなのだ。
‥少なくとも僕らにとっては
メキシコの観光客に酒をおごってもらいノリノリになった三人は、同じくノリノリなメキシカン2人と共に、うさんくさいカリビアンミュージシャン・パンチョ(ファロンの友達or彼氏?)の奏でる音楽に乗って踊る!
演奏が終わり、Revoluciónを後にしたあと、また違う酒場に行くことになった。
もちろんメキシカン2人も一緒だ。
その理由は言わなくともわかるだろう。
僕ら三人は身なりこそキメてるつもりなものの、先進国を代表するもらい乞食。
同情がエサ。
鳴くだけが取り柄の雛鳥のように、親鳥がエサをくれるのを待つばかりかついて回る。
なかなかタチの悪いクソ人間だ。
二軒目につく。
酒を注文!
子供連れと勘違いされ、ガードマンに入店を拒否されたが、しばらく話すうちに仲良くなり、中へと入る。
ここでもLIVEやってるんや~とおもたら、またまたパンチョ登場。
普段は、昼間っから長渕ヘアーの友達と共に、プラプラする姿しか見かけへんが、なかなかよく働く人や。
少し見直した。
これからはパンチョさんと呼ぼう。
ビール片手に、ボブマーリーのような彼の歌声に酔い、酒に抱かれ、狂ったように踊る!
もちろんツイスト!
気がつけばもう2時前。
メキシカンに別れを告げて宿へ帰る。
倒れるようにベッドで寝そべったあと、翌朝アンドレスに言われたことは、
「ハルはロコだね」。
Loco=クレイジー。
彼からしたら、僕は狂った日本人。
そう思われたなら本望だ。
狂ってるなんて最高の褒め言葉だからだ。
しかし、あんたもなかなか狂っているよ。
この町にいるのもあとわずか。
狂った夜にあらわれるという、先進国のもらい乞食たちは、あと何度、人さまからほどこしを受けるのだろう?
それは僕らの気分次第だ。
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