タイ初めての朝は、美しい鳥のさえずりや、愛しい恋人のささやきではなく、おっさんのえづく音で目覚めた。
朝もはよからオエオエと、何度も何度もえづく音。
きっと洗面所で歯ブラシ片手に舌をみがいてるんやろう。
あれはなかなか癖になる。
えづくと分かっていてもやめられない舌みがき。
朝からおっさんのハーモニーが聴けるなんて、なかなか爽やかな目覚めや。
部屋を出て宿を探索する。
が、ガイドブック的な物は一切見当たらない。
その代わりにヘタクソな地図が一枚貼ってあった。
携帯で写真を撮り、3日前に買っていたカスカスのパンをつまんだ後、宿を出ることにした。
リビングにいた日本人2人に一言挨拶を告げる。
一切会話はしてないが、一応日本人のよしみ。
あいさつは礼儀ってなもんや。
「じゃあ、行きます。さよなら」
「えっ! もう行くの? 今朝来たんじゃないの?」
「いや、昨日夜遅くにきたんですよ」
「そうなんだ。どこ行くの?」
「えっと…チャオプラヤー川に」
「チャオプラヤー川って、またおおざっぱだね。
すぐそこにもチャオプラヤー走ってるよ。王宮の方?」
「いや、よく分からないんです。
ガイドブック無いし。ただ友達に聞いたら川行ったら?ってなったんで」
「よし。ちょっと待ってて!」
そのオジサンは一緒にいてた若い兄ちゃんと、王宮行きのバスの乗車法について、話し始めた。
するとそこに、また新たなハポネスが現れた。
そして、ことの成り行きを聞いたハポネスはこう言った。
「だったら僕いまからチャイナタウン行くから、途中まで一緒について行ってあげるよ」
ラッキー!
しょうみ助かった。
なんせわからんことだらけやし。
きっと2人だけやったら、上手くはいってなかったやろう。
宿から、アラブ系のモデル達が住みついているという貧民街を抜けバスターミナルへ。
チャイナタウン行きがちょうど発とうとしてたので、急ぎ足で飛び乗った。
バスに揺られる20〜30分ほどの間、彼の話す会話の8割は風俗に関することだった。
少年のように目を輝かせ話す彼を見ると、よっぽど風俗が好きだと見える。
僕が昔、風俗出版社に勤めていたことは一切口には出さなかった。
きっと口に出すと大変なことになると思ったから…
だから終始うなずいてばかりいたのである。
バスを降りてからも、延々風俗の話を続ける彼とお別れを告げ、軽く飯食ってから53番バスに乗ってカオサンへと向かった。
バス代は1人6.5バーツ(約16円)
安い!
そんな安い値段にもかかわらず、バスの料金回収のおばちゃんは、
「ここがカオサンよ」
と、親切にも教えてれたおかげで、無事カオサンに到着した。
宿探しもしなきゃいけないが、とりあえず暑いのでビールを購入。
公園のベンチに腰掛け呑もうとしたが、警察っぽいのに怒られたので、道路マップの立て看板の後ろに隠れながらこそこそ流しこんだ。
ビールが無けりゃこっちのもん。
生ぬるい風を切りながら、堂々と道をあるく。
すると左手に橋を発見!
橋の中央にはゲートがあり、タイ語で何やら書かれている。
$°○×=々^〜
はは~ん。
きっと、
カオサンロードへようこそ!
って書いているに違いない!
橋を渡ると、民家に入り混じり数軒の安宿が建っていた。
しかし、観光地のわりにはかなりさびれている。
それでも、日常生活を送るタイ人に混ざり、白人たちがポツポツ歩いていた。
割合でいえば、フィフティーフィフティーや。
不思議と日本人らしき影は一切見当たらない。
まあ、そんなことはさて置き宿探し。
まず最初に目についたのが韓国人宿。
宿の外で韓国の人がタバコプカプカしていた。
ヤンキーぽい若い奴らの溜まり場と化していたのでパス。
も一つ奥のタイ人のおばちゃんが経営する宿に行く。
シャワー&トイレ共同で、一部屋250バーツ(625円)。
安い!
が、少々高くてもシャワー&トイレは付いてる方がいい。
なぜなら下痢のとき助かるからだ。
しかし、ここにはシャワー付きはないという。
すると、
「シャワー付きの宿紹介したるよ」
と、おばちゃんに連れられ別の宿へ。
たどり着いたのは、安宿「WHITE」。
シャワー&トイレ付きで250バーツ。
部屋も割りかし綺麗やしここに決めた。
しかし、気になるのがこのホワイトという名前。
別に白人が経営しているワケではない。
白人が経営していたならば、せめて名前はホワイトハウスやろう。
オーナー不在時には、隣近所のおばちゃんが勝手に部屋に案内してくれ、ルームキーまで渡してくれるという、ばっちりタイ形式な宿。
やのに、この白人たちが上客になっているゾーンで、宿の名前が白て!
白人泊りにくんの?
あきらかに白人共に喧嘩売ってるとしか思えない。
黒人に向かって、
「おいクロ!」
って言ってるようなもんやろう。
マイクタイソンにやられちまうよ。
と、黄色アジアンボーイは思うのだが、不思議と僕らが泊まった部屋が最後の一部屋だったらしく、宿は満室に。
「僕ら以外の宿泊客は一体何人や?」
という疑問はよそに、とりあえず暑いのでビールを呑むことにした。
とにかくバンコクは暑い!
この暑さから来る脱力感は何とも言えない。
宿を出てすぐの飯屋でビールと飯食って、歩いて五分の近所の公園に腰掛ける。
チャオプラヤー川の泥臭い水で歯を磨くおばちゃんや、支流で魚を捕まえるおじちゃん。
この汚い川の魚を食べてたんや!
と、思うと吐かずにはいられないが、吐くのさえしんどく思える脱力感。
現地人ですら地べたで寝ているというのに、よそもんが何をうろちょろうろちょろ出来るだろうか?
ごうにしいては何とやら。
携帯を持ち上げることすら面倒で、地に置いた携帯電話に耳を当て、寝ながら会話するおばちゃんを見習い、僕らは怠惰に食っちゃ寝呑んで、食っちゃ寝呑んでを繰り返した。
気がつけば夜22時。
腹も減ったし町に繰り出したが、どこもかしこも閉まっている。
観光地とは思えないさびれかただ。
ようやく見つけた麺屋でズルズル麺をすする。
帰りにコンビニに寄ったが、夜はビールの販売は出来ないってことで残念顔で帰る。
帰宿し、昼間その辺の店で買ってあったタイウォッカをあおるが、あまりの不味さと蒸し暑さにやられて一瞬で沈んだ。
よくよく考えたらウォッカなんて酒、暑い国で呑む酒やないんや。
深夜4時すぎ、人の話し声で目が覚めた。
よく聞けば英語や。
ああ、やはりこの宿には僕ら以外には白人しか泊まっていないのだ。
Whiteという名のブラックユーモアでオルガズムに達した白人共は、こんなさびれた観光地の一体どこで夜を明かしていたのだろうか?
どうでもいいから静かにしてくれ。
頭が破裂しそうや。
怠惰に暮らす黄色人種は、白人共の溜まり場にてウォッカにて沈没。
そしてもうすぐ太陽が昇る。
迎え酒はもちろんビール。
腹下し覚悟で氷を入れよう。
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