翌、10月8日。
朝食前にボニーにあいさつしに行った。
「三月までおる予定やし、賃貸住宅探すまでのしばらくの間、部屋使わせてもろてもいい?」
するとボニー、
「え?
賃貸住宅探してんの?
なら、あるよ。
今すぐ案内するよ!」
あれだけ冷たくよそよそしかった彼が、まるで別人のように明るく陽気な人間になった。
いや、というよりは、元に戻ったと言う方が正しい。
何故なら彼は、いつも陽気やからや。
ただ、娘の為にキレイにせなあかん部屋を、どこの馬の骨か分からん日本人2人に占領されまいと、冷たく接していたのだろう。
ハイテンションのボニーに連れられ、やって来たのはセニョール・ミゲルの家。
「オラ! ムーチョグスト!(はじめまして)」
「ムーチョグスト!」
セニョール・ミゲルは、ボニーの嫁さん・チェパの姪っ子の旦那さんで、実は今回が初対面。
二ヶ月前、姪っ子と娘はよく見かけたが、彼は見かけなかった。
きっと働いてないんやろう。
なんせ土曜日の真っ昼間から、働かずに部屋でニート気取ってるんやから。
「ボニーから聞いたけど部屋を探してるんやって?」
「うん」
「期間は?」
「半年かな」
「いいよ。家賃はホンマは800ペソやけど、ナンボがいい?」
ってな具合に、家主自ら家賃の値下げを切り出してきた。
借り手側からすれば、こんなにうまい話はない。
が、ナンボがいいと言われましてもこの町の賃貸相場は分からんわ、部屋は見てないわ、どないせ~ちゅう話。
う~ん。
若干悩んでいると、昨晩のボスの話を思い出した。
”月300ぐらいかなぁ”
300?
せや、300や!
「300ペソ!」
「300! それはちょっと…」
苦笑いが返ってきた。
…ボスの嘘つき。
しかし、この苦笑いは、
「300なんかで貸せるワケないやろが、このイかれチンポ野郎」
的な苦笑いではなく、
「もう少し色つけてよ、おチンポくん」
的な苦笑いであることは、即座に理解出来た。
次男に生まれたおかげで、顔色判断能力A級の僕ちんには、これぐらいのことは朝飯前。
そこんとこ両親に感謝!
引き続き家賃交渉。
350じゃ安すぎるし、500じゃ懐が泣きをあげる。
それに、いざ見た家がボロ家やったとしたら、最悪この上ナシ!
いろんなこと配慮した結果、出た答えはこれ。
「400ペソ(約2600円)はどない?」
「いいよ!」
よっしゃ! ハルくん大正解!
こうして無事に借りることが出来たワケやが、問題の家はというと、
…べらぼうに広かった!
玄関を開けると、すぐリビング。
その奥にキッチンルーム。
別に部屋が2つ。
計4部屋で、おのおのが昔のたたみ六畳分ぐらいの広さがある。
シャワー&便所は外。
洗い場も外で少々不便。
壁も所々はげてて、何一つ物はない。
が、なかなかキレイで裏庭が家の二倍ぐらいの広さがある。
大阪でこれだけの広さの家を借りるとなると、10万以上はするんちゃうやろか??
いくらメキシコの物価が安いとはいえ、400は安すぎる!
なんせ800から半額になったんやもん。安すぎるやろう。
しかも、町の中心地(道路が二車線なだけやけど)。
かなり、ラッキーや!
ちゃんと金払って借りる家での、初めての2人きりの生活。
テンションは上がる一方。
そして迎えた初夜。
奥の部屋のベンティラドール(天井吊り下げ型・扇風機)のスイッチを入れ、明かりを点け、布団を敷く。
すると途端に鳴り響く、怪しげな機会音、
「ブオンブオン……ボンッ!!」
爆発音と共にベンティラドールから火花が飛び散り、明かりは瞬く間に消えてしまった。
そして、焼け焦げた臭いだけが、部屋中に充満する。
こうして迎えた新生活初夜。
不安と不満、怒りと嘆きは心の片隅にしまい込み、2人はそっとまぶたを閉じた。
なんせ400ペソやから。
…はぁ~。Ni modoーニ・モードー
(スペイン語でしゃあないの意味)
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