ーフルーツポンチ。
それは、シロップ漬けの缶詰フルーツを混ぜ合わせ、場合によっちゃ寒天やら小豆やらが入った、ちょっと贅沢なおやつ。
子供から大人まで、フルーツポンチを愛する人は、
「ぼちぼちいてるんやないかなぁ」
と、思う。
僕はどちらかといえば、フルーツポンチを食べるよりは、
「フルーツポンチを逆さから読んでみて!」
「えっ!?
ち…ちん。 もう!」
と、生娘を恥ずかしがらせる方が好きや。
そんなフルーツポンチ。
ここメヒコでは、ノーチェブエナ(クリスマスイブ)やフィンデアーニョ(大晦日)に食べるのが伝統だという。
せっかくやから作り方を教えてあげるとグロリア母さんは言うが、
「フルーツポンチ。…正直全く興味ねぇ~!!」
が、教えてもらうことになった。
まずは準備。
リンゴ、パイナップル、ガヤーバ、テホコテ。(全部果物)
それに、干しぶどう、干しスモモ、砂糖とさとうきび。
そこに缶詰は用意されていなかった。
一体メヒコのフルーツポンチとは何なのや?
と、母さんに尋ねる。
母さんいわく、日本のフルーツポンチと違い、メヒコのフルーツポンチは温かいらしい。
ちなみにこっちでは、Ponche(ポンチェ)。
もしくわ、Te de fruta(テ デ フルータ)という。
温かい果物と聞き、より一層興味は薄れたし、確実に不味そうやから食べるのも嫌やなあと思いつつも、仕方なく教わる。
しかし、まあ、教わるって言ってもかなり簡単。
まずは果物を切る。
(干しぶどうと干しスモモは切らない)
りんごは変色するので、水に漬ける。
塩水ではなく、ただの水だ。
だから、若干変色した。
しかし、ここメヒコでは細かいことは言いっこなし。
りんごが少しばかり変色してようが、朝飯のスープにブユ(小蝿)が浮いてようが、何も言わずに食べるんや。
それがここのスタイルなんや。
果物を切り終えると、お次はさとうきびを切る。
竹みたいな分厚い皮を削ぎ落とし、一口大に切る。
これがなかなか力がいる。
が、まあまず、日本帰ってからさとうきびを切ることはないやろう。
母さんが言うには、
「さとうきびなけりゃあ黒砂糖(赤砂糖)でもいいよ」
らしいし。
切り作業が終わったら、沸かしておいた大量のお湯に固い物順にぶち込み、後は煮込むだけ。
なんとまあ簡単な料理なんだろうか。
そして、かなり美味しくなさそうだ。
しかし、その時はやってきた。
そう。味見。
母さんが言った。
「ハル。プロバール(味見)して!」
「うん」
母さんが鍋にスプーンを突っ込み、果物の煮汁を少しばかりすくい上げる。
それが恐る恐る僕の口に運ばれてくる。
まずそうやし、熱そうやし、一瞬、
「イジメちゃうのこれ?」
なんて疑問が脳裏に浮かんだ。
嫌々ながら、遂に煮汁が舌に着地した。
…ゴクッ。
「…うまっ! 何これ! めちゃ美味!」
とにかく美味い!
日本のフルーツポンチなんか足元にも及ばんぐらい美味い!
果物本来の甘みと、天然さとうきびの甘みがギュッと詰まったフルーツティー。
砂糖はホンマに少ししか入れてへんから、変な甘さはまったくない。
香りもいいし、想像していたもんとは、似ても似つかん絶品料理や!
これはホンマに美味い!
日本に帰ったらぜひ作りたい!
そして、ホワイトラムを少し入れて寒い夜に呑むんや。
こっちでは安モンのさとうきび焼酎を入れるけど、日本じゃラムを入れて呑もう。
体も芯からあったまって、たまらんぐらい酔えるハズや。
やっぱり食わず嫌い、呑まず嫌いはあかんね。
なんせ、料理修行も兼ねた旅やからね。
もっと勉強せなね。
フルーツポンチは缶詰よりも、逆さから読ますよりも、メヒコ流が最高や!
と、気づいたイブのお昼過ぎ。
今頃日本じゃ、イブにイカれた若者が、ラブホテルのフロント前で、三角座りしながら部屋が空くのを待ってるんやろうなぁ。
だっせぇぜ!!
そんなカップルだっせえぜ!
はっ!?
10年前の俺や!
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