この農場での仕事も残すところ後3日。
というところで、事件は起こった。
6月30日(木)。
台風の影響で前日から降り続ける雨が、いまだ止まないおっくうな日に、それは起こったのだ。
いつもどおり仕事が始まる。
昨日に引き続き、ゆうきと月曜日からやってきたMarcosは、阿呆のLauraと共になんやかんやさせられ、僕はCarlosと穴を開けたり耕したり。
ボスは買い物のため、9時頃いなくなった。
9時半になり、ゆうきちゃんに朝飯の用意をするように頼みに行く。
今までは毎朝10時になったら、ボニーって食堂に食べに行ってたのだが、今週から一日飛ばしで家で朝飯を作らなくてはならなくなった。
理由としては、
「家に食料があるから」。
だが、正直食料はほとんどない。
阿呆なパトロンや。
10時になり朝飯を食べに家に向かうとゆうきちゃんが、
「手伝って」
という。
まだ終わってないんやと聞くと、
「9時半になって準備しようとしたら、Lauraが10時になるまでは準備したらあかん」
というので、結局今から作り始めるところだという。
にもかかわらず彼女は手伝いもしないで、エシャロットの種をいじくっている。
朝は朝で、雨漏りで濡れた廊下を掃除させられたという。
僕らは農業のボランティアでここに来ているわけであり、別に使用人でも家政婦でもない。
だから、10時になり朝飯を彼女が用意しているならまだしも、僕らが彼女の分まで朝飯を用意するなんてことは、まったくもってオカシイ話や。
さすがに腹が立ったので、この間違ったおまんこ野郎に一言いうことを決意した。
「おい。なんで9時半から朝飯の準備したらあかんのや?」
「お前らはボランティアやからどーのこーの‥」
そのボランティアという一言にカチンときた。
ロクに食材も用意しないで働かすだけ働かして、ようその一言が言えたなと。
が、スペイン語初心者なのでうまく言えないから、とりあえず、
「tu tonta!(君アホやろ)」
と言う。
まるで紳士的なツッコミをする一漫才師のように。
え?
ハル今なんて言ったの?
彼女の驚いた顔を見たら、なぜかより腹が立ったので、お次は、
「mierda!!(うんこ野郎)」
を連発した!
すると、やっとこさ悪態をつかれてると理解したようで、彼女も負けじと、チーノ(中国人)と返してくるが、こちとら痛くも痒くもない。
「お前日本語しゃべれや」
「でも、ここはメキシコ‥」
「知らん知らん。うんこ野郎うんこ野郎うんこ野郎‥
日本語しゃべれ、うんこ野郎!」
スッキリしたなぁ~!
と、気分爽快感を味わった30分後、即座に家を追い出された。
重たい荷物をひきずりながら、行くあてもなく雨の中をさまよう2人。
そんな惨めな日本人を拾ってくれたのは、他ならぬBOSS。
「はるとゆうきが好きなだけ、いつまででも、この家に寝泊まりしてくれてもいいよ。
グロリアも子供たちも2人が居てくれたらうれしいんやから」。
涙が出そうなぐらいうれしかった。
そして、
「もし、2人きりの部屋がいいなら、ボニーに一部屋空きがあるからそこを使ってもいいよ。
家賃はいらないから。
でも、キッチンはないから、ご飯は食べにおいで」。
ということで、BOSSのやさしさのおかげで、2人はまだまだこの町に居座れることになった。
ただ、さすがにBOSSん家に毎日泊まるのも悪いので、ボニーの空き部屋に泊まることにした。
食堂の裏手に存在する空き部屋。
豚小屋の隣に存在する空き部屋。
部屋と言うより物置小屋ちゃうん?
と、思わざるをえない空き部屋。
いくら掃除してもホコリがなくなることのない、工事途中の部屋にあるのは、BOSSの作ってくれたベッド台に板を敷き、その上にダンボールを敷いただけの簡素なベッド。
そして、扇風機が二台に、使用不能のテレビとレンジがある。
あと、ホコリにまみれた赤ちゃんベッドも‥。
しばらくのあいだ2人はこの部屋で、豚の匂いと蚊の群れと戦いながら過ごさなければならなくなった。
正直豚の匂いは臭い。臭すぎる。
鼻が曲がらなければいいのだが。
「やっぱり出て行くわ」
と、言おうかなとも一瞬考えたが、ここまで用意されていまさら町を出ていくとは言えない。
そして、ここから2時間ほど離れた町で仕事の依頼が来ていたらしいのだが、
「はるとゆうきはこの町を去らないよ」
と、丁寧にもBOSSは断ってくれたので、仕事のあてもなくなった。
日本人=マッサージ。
という勝手なイメージのおかげで、
「マッサージしてよ!」
という依頼が来たときだけ、マッサージをすることで臨時収入とただ飯が喰らえる。
僕はプロではないが、マッサージに関してはなかなか評判がいい。
そういえば昔オトンが、
「はる。マッサージ覚えとけば社会に出たときに、先輩や上司に気に入られるし、なんやかや得するぞ」
と、言っていた。
正味な話、日本に居たときにマッサージで得したことといえば、ギャルをマッサージしてるときに胸の谷間を見れたことぐらいで、勃起はすれども出世や給料UPにつながったことは一度もない。
マッサージがきっかけで、おまんまんとつながったことも‥ないことはない。
が、今この日本から遠く離れたメキシコという国で、少しながらでも金を稼げているのだから、オヤジの言ってたこともまんざら嘘ではない。
この町にいる間は、週に一度あるかないかぐらいのマッサージで日銭を稼ぎながら、このハウスダストっちゅーか、小屋ダストのすごい場所で生活をしていくのだ。
今の2人にはここがふさわしい家なんやろう。
家賃0円。
昔憧れた漫画「ボーダー」に出てくる主人公・蜂須賀が住んでいる、家賃3千円の元便所部屋よりも安い部屋。
ある意味夢が叶ったんかなあ~。
ただやっぱ豚臭いのは敵わんなぁ~。
刑務所ん中もこんな匂いするんかいな。
ここで一句。
豚小屋の
近くの小屋で
あのよろし
ーハルキチ心の俳句ー
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