農家を追い出されてから、かれこれ二週間が過ぎた。
毎日ボケ~ッと過ごすのも逆に力がいるし、かといって仕事を探そうにもこの小さな町では無理がある。
マッサージにしてもホンマたまにあるだけやし、二回に一回はタダでやってるから、対して稼ぎもない。
まあ、飯やら酒やらはご馳走になってるが。
なんせ世話になってる人ばっかやから、そないに金は貰えんやろう。
それでも一ヶ月で1000ペソ稼いだ。
ボスの月給の四分の一。
カルロスの月給の2.4分の一。
まともに喋れへん外国人労働者にしては、まずまずの出来やろう。
しかし、そろそろこの町に別れを告げるべきなんじゃないかと考えている。
このままここで、VISAが切れるまでの約二ヶ月間、ちょこちょこ農場の手伝いをしながら(アホどもが不在のときに内緒で)、町人のtendón(腱もしくわ、筋、または腱鞘炎)の痛みをマッサージでやわらげるのもいいだろう。
ボスが都会で暮らす娘や息子に、日本人が労働可能なレストランを聞いてくれたりしてるから、運がよければVISAが貰えるかも知れない。
そうなれば、ここから2時間ほど離れた都会で働きつつ、月に一度はボスん家に遊びにくることも可能やろうが、なかなか難しい話な気もするし、これ以上頼りすぎるのもよくない。
せまい部屋でも住んじまえば都さ~
なんて唄ってるやつもいるが、ここには、TVにラジオ、ステレオにギターどころか、落ち着ける空気すらない。
だから、僕の見たビートルズはTVじゃなくて、あの金持ちの家に置いてある、デュークボックスの中や。
とにかく、今の僕らの望みはただ1つ。
上を向いて寝ることや。
なんせ天井からのホコリが凄いから。
「俺ら一体何してんやろなぁ~」
なんて、言わなくてすむ部屋がいいなぁと、思うわけや。
このままやと、ええかげんハニーも、常識人を探して結婚しちまうやろう。
そういえばペペは彼女に、
「もうええかげんお前とは付き合いきれへんわ。
このウンコ野郎!」
と、言われてフラれたと言ってた。
そらそうや、BARで働いて金が貯まったかおもたら、
「旅に出る!」
で、金無くなって帰ってきて働いて、また金が貯まれば旅に出て‥
そんなことばっか繰り返して、まともに就職もせずに、
「29歳学生です。ちょっぴり遅すぎる学生かな?」
なんて舌出しながら言ってるスペイン人。
ダメも何もダメダメやろう。
‥あれ?
なんかペペに似たような奴、日本にも1人いたような??
ほっといてくれよ~。
まあ、とにかく出ていこうかなと、2人して話してるわけや。
とりあえずアテは1つある。
Joséから届いたメールに書いてあった、Nuriaと言う名のパトローナが経営する農場に、ひと月ほど前からコンタクトをとっていたのだ。
ただ、彼女はイスラム教徒らしく、送られてきたメールを解読すると、
~ここは魂を休める場所やとかうんたらかんたら‥
書いてある。
面倒くさそやし、かなり宗教臭い。
それだけが不安や。
確かイスラムは豚肉が食べれんかったハズ。
そして、酒もあかんかったんちゃうか?
カンカンに熱した鉄板の上で豚玉焼きながら、瓶ビールの蓋をシュポンッと空けて、トクトクトクッと冷えたグラスに注いで、口のまわりに泡つけながら、お好みをホフホフッと頬張る。
舌やけどしそうなったら、ビールで流して‥
こんな最高の食の楽しみ方が出来ない宗教は、僕にはちと理解不能や。
せやけど行くとこないし、もしかしたらめちゃおもろいかもしれんし。
なんせ蓋ってのは空けてみんと分からんもんやからなぁ。
美味そうなもんがたんまり入ってるんか?
それとも腐った苦汁が、おいでおいでと待ってるんか?
それが知りたくて、日々何かを探してるのか?
前世で落とした大金が、どっかに落ちとらんかなぁと首を横に振って探してるんか?
よう分からんが、も少しだけ無職を満喫でもしようか。
なんせ有職と違い、これから何色にでもなれる可能性を持っている。
無職を誇りに思っとるよ!
ただ、部屋のホコリだけは正味勘弁してください。
0 件のコメント:
コメントを投稿